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岡山地方裁判所 昭和41年(ワ)582号 判決

原告

秋山秀子

外五二〇名

右訴訟代理人

寺田熊雄

外二名

被告

岡山電気軌道株式会社

右代表者

松田荘三郎

右訴訟代理人

小野敬直

主文

被告は原告らに対し、それぞれ別紙祝日手当一覧表記載の金員およびこれらに対する昭和四一年六月一日から支払済みにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判〈省略〉

第二  当事者の主張

原告ら

一  被告は、岡山市に本店を置き電車およびバス運行の事業を営む株式会社であり、原告らはいずれもその従業員で私鉄中国地方労働組合岡山電軌支部(以下、単に、組合という。)に所属していた。

二  被告会社における賃金体系は、組合との労働協約、賃金規程等により定められ、一般従業員についてはいわゆる日給月給制で、賃金は、基本給、家族手当、精勤手当からなる基準内賃金と、超過勤務手当、その他の手当からなる基準外賃金とに分けられており、その支給日は、原告らについていずれも当月分につき毎月二五日と定められている。

そして、右の基準外賃金のうちのその他の手当は、ガイド手当、ワンマンカー手当、祝日手当、指導手当、宿日直手当、通勤手当からなり、そのうち、祝日手当は、所定の特定休暇すなわち国民の祝日、三月三日、メーデー、会社創立記念日について、各従業員に対し、その基本日額の一日分が支給されるものである。

三  原告ら各人の昭和四一年五月三日、同月五日の国民の祝日当日における基本日額は別紙祝日手当一覧表記載のとおりである。

四  そこで、原告らは被告に対し、別紙祝日手当一覧表記載の祝日手当額およびこれらに対する弁済期後である昭和四一年六月一日から支払済みにいたるまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。〈以下略〉

理由

原告ら主張の一ないし三の事実および被告主張の事実中、被告会社と組合との労働協約第九六条に、被告会社は争議行為に参加した組合員に対してはその日数および時間に対する一切の賃金を支払わない旨の規定があるところ、組合が、昭和四一年五月三日、同月五日にストライキを実施し、原告らにおいていずれもそれに参加したことは当事者間に争いがない。

そこで、本件祝日手当が労働協約第九六条の規定でいわゆるストライキによる控除をなさなければならない対象賃金なるべきものであるか否かにつき、検討してみるに、〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

被告会社は電車およびバス運行の業務を営む会社で、その従業員のうち運転手等現業員の賃金についてはいわゆる日給月給制がとられており、昭和三六年当時においては、その賃金計算方法は、基本給の三〇分の一をもつて基本日額とし、週休日は、労働しないにもかかわらず公休手当の名目で右基本日額を支給する計算で毎月の賃金が支払われていた。そして、国民の祝日については、現業員については非現業員とは異なり、一月一日、メーデー(五月一日)、春、秋分の日以外は休日とならず労働日とされ、右の休日とされた日に勤務した者に対しては、右の公休手当なる基本日額のほか勤務したことにより更に基本日額、一月一日とメーデーについては更にその二割五分増の手当が支給されていた。

このように、被告会社の交通事業の特殊性からとはいえ、国民の祝日については現業員と非現業員とに差があるため、組合は従前より、現業員にも国民の祝日をすべて有給休日とするよう要求していたのであるが、昭和三六年の労働協約改訂に関する団体交渉においても、組合は被告会社に対し労働時間の短縮等のほか国民の祝日全部を有給休日とするよう要求した。一方、右要求を受けた被告会社は、当時の賃金計算が右にみたように基本日額を基本給の三〇分の一としていたため、週休日についても基本日額を支給する結果となつていたので、右を改め、基本日額を二六分の一として週休日を無給とするように賃金計算方法の変更を提案した。そして、同年一〇月以降再三団体交渉等を開いて双方協議した結果、組合は、被告の提案した基本日額を基本給の二六分の一として週休日を無給とすることを了承することとし、また、組合の主張する国民の祝日を全部有給休日とすることは、被告会社の業務からして不可能であるので、国民の祝日およびメーデーはすべて原則として労働日とすることとし、そのかわり、前記賃金計算方法の変更に伴い賃金の減額をきたすことをも勘案して、右期日における労働に対しては、基本日額のほか祝日手当として更に基本日額を支給することとし、ただ、週休日と国民の祝日またはメーデーとが重なつた場合には祝日手当を支給しないということで同年一二月一六日双方の合意をみ、労働協約第二七条が規定されるはこびとなつた。ところが、その後に右の計算方法によるも、年次有給休暇を一九日もしくは二〇日取る者については、年次有給休暇の賃金の計算方法が基本日額ではなく平均賃金(家族手当、時間外手当を含めた三ケ月平均)を基準として計算するということになつている関係上、従前よりなお減額となる者が出ることがわかり、また、右期日に勤務しない者にとつては従前の計算方法より不利益な結果となるので、組合としては、祝日手当を週休日等で国民の祝日に勤務しない者に対しても支給するよう要求した。そこで被告会社より星島労務課長、湯浅給与係長、組合より金沢書記長の三名がそれぞれ当事者双方より委任を受けて協議した結果、年次有給休暇を取つたために賃金が減額となる者については、その減額部分を調整することとし、また、祝日手当については、当該祝日に週休日、その他の休暇、欠勤により労働しない者に対してもすべて支給することとし、ただ、長期の欠勤者について支給するのは妥当でないとして欠勤の中途に当該祝日が含まれる場合には支給しないとすることとした。

そして、当該祝日に休みたい者は、被告会社の承認を得た場合のみ欠勤とされないで休むことができるが、承認を得られない場合は欠勤とみなされることとした(その場合でも祝日手当が支給されることはさきに述べたとおり。)。このようにして合意をみた結果は、労働協約改訂に関する協定書(昭和三六年一二月一六日付)の確認事項に明文化され、その1ないし3になお賃金計算方法の変更に伴う減額を調整する旨記し、その4に、

第二七条の祝日手当は該当日にはすべて支給する。

但し欠勤の中途に含まれた時は支給しない。

当該祝日に本人の都合で会社の許可なくして休んだ場合は欠勤扱いとする。

と規定した。その後、労働協約第二七条は一部文言を手直しし、祝日手当支給該当日を増加(国民の祝日、メーデーのほかに三月三日、会社創立記念日を追加)しているが、前記ストライキ当時、なお右と同趣旨の規定が存する。

以上のように認められ、他に右認定を左右する証拠もない。

右のような本件祝日手当が設けられた経緯をふまえたうえで、労働協約第九六条との対比において考察するに、労働協約第九六条が争議行為に参加した組合員に対してはその日数および時間に対する一切の賃金は支払わない旨を定めていることは当事者間に争いがなく、また、〈証拠〉によれば祝日手当は賃金規定にいう賃金にほかならないことが認められるので、言葉の形式的な意味で、祝日手当が労働協約第九六条にいう「一切の賃金」に該当するということにはなるのであるが、しかし、〈証拠〉によれば、被告会社においては、家族手当、精勤手当、通勤手当については、いわゆるストライキ自体による賃金カットは行なわれておらず、ただ、ストライキが長期にわたるような場合に、支給基準の日数が足らなくなつたことにより支給されなくなるものであることが認められることからすると、労働協約第九六条にいう「一切の賃金」は、必らずしも賃金規程にいう賃金のすべてを指すものとも解されず、右の家族手当のように、いわゆる狭い意味の「労働の対価」として支給されるものではない賃金は右の賃金に含まれないものとの解釈のもとに右条項の運用がなされていると考えざるをえない。

ところで、本件祝日手当は、さきにみたように、組合の国民の祝日を全部有給休日にせよとの要求に対し、被告会社の業務の性質からそれが不可能であるため、国民の祝日は原則として労働日とすることとし、そのかわり、その日の労働に対して祝日手当を支給するということで当初合意をみたのであるが、その後、組合より従前の賃金計算方式との対比のもとにおける要求により、結局、当該祝日において、週休、その他特定休暇、欠勤等により当該従業員が労働しない場合にも支給されるようになるにいたつたもので、しかも、会社の承認を得たものについては欠勤扱いを受けることなく休むことができ賃金と同額の祝日手当の支給を受けるといういわば有給休日的な面も持つており、加えて無断欠勤の場合においてさえ支給されるものであることを勘案すれば、本件祝日手当は、いわゆる狭い意味の「労働の対価」として支給されるものではなく、生活補助費の性質を有するものと言うことができるから、労働協約第九六条にいう「一切の賃金」には該らないものと解すべく、右祝日手当の性格からして、ストライキによる不就労の場合でもこれを給付すべき義務を被告会社は負うと解するのが相当である。

そうすると、原告らの前記ストライキ当時における基本日額が別紙祝日手当一覧表の記載のとおりであることは当事者間に争いがないから、原告らは被告に対し、同表記載の各金員およびこれらに対する弁済期後である昭和四一年六月一日から支払済みにいたるまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を請求しうることとなる。

よつて、原告らの請求はすべて理由があるから認容することとし、民訴法八九条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裾分一立 米沢敏雄 近藤正昭)

別紙原告ら住所氏名一覧表内容省略

別紙祝日手当一覧表内容省略

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